月夜のモスクワ
メトロに乗った僕は、記念にボリショイ劇場だけちょっと見てみるかとチアトラーリナヤで降りた。革命広場、レーニン像、劇場広場を経てボリショイ劇場の周りを散歩した。次に来たときは演目を見てみるのもいいかもしれない。今回はもうお腹減りすぎてやばいので宿に戻る。
帰り際に商店で「武士道(BUSHIDO)」というコーヒーが売ってた。品格誇り知って何だ、LIGHT KATANAのこの正直者め、意味がわからないな。
宿の前のアイスクリーム屋のコースチャくんが店じまいをしていたので、この近くで安くてうまい夕ご飯を食べられる店を知っていないか尋ねてみたら「ラプンツェルという良い店がすぐ近くにあるよ」と教えてくれたので、言われた通りに場所を探してみたが見つけられなかった。
トボトボ歩きながら通りのベンチに座っていた女性に「すみません、ラプンツェルというレストランを探しているのですが、知りませんか?」と尋ねてみると「ラプンツェルは知らないけど、レストランはここだわ」と言うので「おいしいですか?」と質問したら「おいしいわよ。だって私ここで働いてるの」と「そうなんですか!時間遅いんですがまだ入れますか?」「大丈夫よ」「スパシーバ、ボリショーイ(どうもありがとう)夕飯食べに行ってきます」と、二人に言われるままに店に入ってみた。
さすがに時間も遅いのか、店内のお客さんはまばらだったけど、清潔感のある感じの良いレストランだった。
席に案内されてホームメイドボルシチとパンとビールを頼んだ。ボルシチめっちゃうまかったのと、ボルシチとビールの組み合わせが思いの外合うんだこれが「ありあり全然あり!」
これ以上他に何を求めるって言うんだい、これだけあればご機嫌だぜ。とバクバクと食べていると、ウエイターのセルゲイさんと、ウエイトレスのマーシャさんが「おいしい?日本人?旅行者?どこでこの店知ったの?」と聞いてきたので「おいしい、おいしい!ここは入口の前でリアナさんに教えてもらった」と言ったら笑っていた。「閉店近くの遅い時間にすみません、ごちそうさまでした」と言ったら「気にしなくていーよ」と言ってくれたので嬉しかった。食べ終わって記念に三人で一緒に写真を撮って店を出た。時計の時刻は夜の11時を回るところだった。
宿に戻ろうとしたら、ふと空を見上げると建物の隙間から月が見えて、僕は突然来た道を引き返して赤の広場に向かって歩いて行った。
国立歴史博物館もヴァスクレセンスキー門も、ライトアップされた建物は温かい色をしていた。もうすぐ夜の12時なのにまだ広場には人がいて少し安心した。赤の広場を歩いて聖ワシリイ大聖堂を眺めると、屋根の後ろには白い月が出ていた。
その幻想的な光景をずっと眺めていたいような気がして、スパスカヤ塔の下の芝生に寝転んだ。そしてモスクワの次の進路を考える。
「さぁ次はどこへ行く?どこに行けばいい?行く宛ては特にない。なら日本に帰る?それも有りだ、無しじゃない」
「う〜ん、サンクトペテルブルク行ってみるか」僕は芝生から体を起こして立ち上がった。「そうと決まれば列車のチケット買わなきゃいけない」。腕時計を見る「もう1時過ぎか、今日はもう遅いから宿に帰って寝るか〜」
赤の広場を出た僕は、街灯に照らされた夜のモスクワを歩いて宿へと戻った。何の疑問も感じてなかったが、故障したかと思っていた腕時計の針もまた動き始めていた。地下道を抜けて、一人歩く。
宿の扉開いてなかったらどうしよう。腕時計の針は真夜中の2時を指していた。
つづく