イースタンドリーム号の日々
客室に戻ると隣のベットには日本人が座っていて荷物を整理していた。僕も自分のバックパックから必要なものを取り出そうとしていたら、後ろから「日本の方ですか?」と声をかけられた。これが、この旅で初めての旅仲間との出会いの瞬間だった。
「船内を散歩してレストランで何か買って食べませんか?」と誘われ「飯は買い込んできたからあるんです」と言った。「まぁいーからいーから」そう言って豪快に笑った中島さんの笑顔を、僕は最後まで忘れていなかったんだろう。しかしレストランに行ったら、もう閉まってしまっていたので、二人で軽食が買える売店に行った。
ロシアまでは二泊三日の航海なので、その間の飲食物を買い込んでた僕は境港でも特に両替をしていなかった。いざとなればクレジットカードが使えると思っていたが使えなかった。そこは甘かった。とは言え、食べ物も飲み物も十分に持っていた。
「にのさんこれ食べましょうこれ、あとビールでいいですか、せっかくだから乾杯しましょう乾杯!」「いや、僕ご飯持ってま…」
「熱っ熱っ」「ちょ中島さん少しこぼしてますよ」「大丈夫大丈夫」「なんかごちそうになってしまってす…」「いーのいーの乾杯しましょ、じゃあ二人の旅に乾杯!」
僕たちは一緒にご飯を食べて旅の話をした。中島さんは志賀島出身の旅好きのおじいさんで、お金を貯めてはいろんなところを旅してるらしい「中島さんはどちらまで行かれるんですか?」と尋ねたら、シベリア鉄道でバイカル湖を見てからウランバートルへ向かい青島から下関に船で帰るらしい。僕はそんな船があるんだと話を聞いていた。
釣り人のような格好をしていたから、釣りが好きなのか聞いてみたら、自宅の近くで釣りもできるらしい。僕も海の側に住んでるけど「なかなか釣りはしませんね」と言おうとしたら、やはり僕の話が終わる前に「そしたらいつか志賀島に遊びに来て一緒に釣りでもしましょう、いいとこですよ」と、中島さんとは別れる時までこんな感じだった。
ご飯を食べた僕らは船内を少し歩いて回った。しばらくして中島さんは部屋に戻られたので、僕は一人でバーやナイトクラブ、免税店、シャワールームの様子を見てきた。どうやら、檜風呂もあるらしい。その後は甲板に出てみたが外はもう真っ暗になっていた。
船はとても早く進んでいるように感じた。波と風とエンジン音が聞こえる甲板から、遠くを見渡しても、海は真っ暗で何も見えない。でも空を見上げたら、雲が少しあったが星はわずかに見えた。
冷えてきたので部屋に戻ったら、中島さんはもういびきをかいて寝てしまっていた。起こさないようにバックパックから洗面用具を取り出して、風呂だ風呂だと船内浴槽に行ったら、檜風呂はもう閉まっていた。仕方がないのでシャワー室でシャワーを浴びた。窓の外の水滴が真横に流れていた、たまによろけそうになるくらい傾いた。
部屋に戻り布団に入ると、きっと疲れていたんだろう、時間的には早いけど僕はすぐに眠ってしまった、船の揺れも音も気にならないほどに。
つづく