アルバート通りとブルガーコフの家博物館
この日もキッチンで味気ない朝食を取っていたら、「やぁ、おはよう」とドミートリィと名乗る樺太から来た自称医者の男に声をかけられた。「もし良かったら午後の仕事の時間まで、モスクワを一緒に回らないか?」と言うので「僕は行きたいところがあるので別にいいです」と答えた。だがどういう訳か「じゃあ私も行こう」ということになってしまった。…何故だ?
「ちょっと待ってて」と食べ終わって部屋に荷物を取りに戻ろうとしたら、害虫駆除の薬剤を散布したとかで部屋に昼まで入れなくなっていた。止むを得ず昼近くまで足止めとなってしまった。
ようやく部屋に入っていいことになりドアを開けるとすさまじい刺激に目と鼻がやられた。息を止めて、さっさとカバンを取って玄関で待ってたドミートリィと合流し、彼の案内でルビャンカまで歩いてマヤコフスキー美術館に行ってみた。しかし、今日は休みなのかやっていなかった。
気を取り直してメトロに乗って救世主キリスト聖堂に行ってみると「その格好では入れません!」と今度はハーフパンツで肌が露出しているために中に入れず、今日の計画は破綻してしまった。仕方がないので今日は、ユリアのオススメの一つブルガーコフの家博物館だけ行くことにした。
アルバート通りは絵描きやパフォーマー、ショッピングを楽しむ人で賑わってた。
そんな中着ぐるみに入った人は悪乗りし放題。…ちょっと女性に抱きつきすぎじゃないだろうか?そのキャラそんなやらしい顔だったか、絶対中身おっさんだろう。
アルバート通りを抜けてしばらく歩くと公園にさしかかり、芝生の上に置かれたクッションでくつろぐ人たちや、卓球の相手を探しているお兄さん、子どもとチェスをして遊ぶ通行人、椅子で揺られるおばさんたち。
そこからもう少し歩いてブルガーコフの家博物館に着いた。ここはイルクーツクにいた時にユリアが「是非行って!」というので、有名な作家という以外全然わからなかったが、まぁ報告のために来てみた。
「私は外でタバコでも吸って待っているよ」と言うので、ドミートリィには外で待ってもらい中に入った。館内にはアルフォンス・ミュシャの絵に似たようなものもあったけど、これはアール・ヌーヴォーと何か関係あるのだろうか。
あまり興味がない。そういう時に限って受付のおっちゃんに「別館があるからそっちも是非行ってみてくれよ!」って笑顔で言われてしまった。知識不足で全然わからなくて申し訳ないと思いながら別館に向かった。それにどうやらここは博物館となっているけど、ファンの集まるような場所らしい、何も知らずに尋ねてきた僕はまさにただの場違いだ。
博物館を出るとドミートリィはベンチに座ってタバコを吸ってた。「やぁ、終わったかね?」「すまん待たせた、ありがとう。でも、ドミートリィ今日の仕事はよかったのか?」「私は大丈夫さ」「そうか」。正直、何が大丈夫なのかよくわからなかったが、本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。
「今日1日付き合ってくれたお礼に夕飯は僕が作るよ」とドミートリィにラーメンを作って食べさせてあげることにした。宿に戻る途中に寄ったスーパーで食材を見繕っていると「スープは私に任せたまえ」と、あれもこれもと何故か予定外の食材をちゃっかり僕の会計に忍ばせたドミートリィ。宿に着いて料理を始め、ドミートリィはスープは完成させ、僕はそれに具とラーメンを合わせた。「え?ラーメン知ってたんじゃなかったの?」。微妙な顔になるドミートリィ。
けど食べてみると気に入ってくれたみたいで「また作ってくれないか」とお願いされた。「材料がまだ少し余ってるから、いいよ」とまた明日ドミートリィに醤油ラーメンを作ることになった。夜に小腹が空いたので、近くの商店で甘くて腹にたまりそうなパンを買って食べた。
冷蔵庫に置いといた明日のラーメン用の具材を確認すると、食材には手をつけてはいけないルールになっているはずなのだが、誰かに食われてしまっていた。…買いなおしかよ面倒くさいな、明日は僕の誕生日だというのに、何故モスクワで醤油ラーメンなど作らないといけないのだろうか。
つづく