バルト三国第三の国リトアニア
(…また雨か)と暗くなる雲を眺めて気持ちが沈んだ。でも、窓の外から見える牛に比べればバスに乗ってる僕なんてまだマシだなと思った。乗ってきたバスはラトビアの国境を超えてバルト三国最後の国リトアニアに差し掛かっていた。
ラトビアを出て2時間ほどでリトアニアのシャウレイにあるバスターミナルに到着。シャウレイのバスターミナルはショッピングモールに隣接していたので何かと便利そうだった。
そもそもシャウレイに立ち寄ったのは、十字架の丘と言う場所に行ってみたかったからで、その場所に行くにはここが最寄りの街になるらしい。早速、バスターミナルのインフォメーションで十字架の丘への行き方を聞いてみることにした。
自動ドアを抜けて中に入ると奥にチケット窓口が見えたので、係のおばちゃんにバスの時刻を尋ねると「1時間後にローカルバスが出るわ」と紙の時刻表を見せながら教えてくれた。おまけに「もし荷物を預けるならそこよ」と隣にあった荷物預け所についても一緒に教えてくれた。
もともとシャウレイに一泊する気はなかったので「十字架の丘から帰ってきたら、そのままビリニュスに行きたいんだけどバスある?」と聞いてみると「その時間だとバスは出てないわね」「電車はあるかわかる?」と質問してみたら「う〜ん、わからないわ」という感じだった。日本を出て一ヶ月。旅慣れてきたせいか、出発した頃に比べ楽観的になってきた僕は、特に確かめもせず「OK!OK!大丈夫。ありがとう(…まぁ、電車だったら夜まであるだろう)」と、一先ず十字架の丘へのバスのチケットを買おうとすると、係のおばちゃんが「リタスじゃないと使えないわ」と言うので「えっ、ユーロ使えないの?」と少し驚いた。てっきりユーロ圏だと思っていたリトアニアはまだ独自通貨を使っているようで、一旦リトアニアのお金を用意しなきゃいけなくなってしまった。(…まぁ、どちらにせよ必要になるか)と隣のショッピングモールにATMを探しに行くことにした。
お金をおろす前にトイレに入ろうとしたら、小銭を入れないとゲートが開かないタイプの有料トイレで(…困ったな)と立ち止まっていたら近くにいた高校生くらいの男の子が「これ使いなよ」と親切に自分の財布から小銭を出してくれた。「え!?良いの?」と戸惑っていると、タイミング良くトイレの中から人が出てきて、その男の子が「今、入れるぞ!行け行け!」と言うので「ん?ラッキー!サンキュー!」と、どさくさに紛れて用を済ませた。出てきた頃には男の子の姿は見当たらず、何となく心の中でお礼を言ってATMでお金をおろした。
その後、バスのチケットを買ってバスターミナルのベンチで時間を潰し、しばらくして着いたバスに乗った。
シャウレイからバスに乗って20分ほど経つと、バスの運転手のおっちゃんが「十字架の丘はここで降りるんだよ」と言うので、言われた通りにバスを降りようとしたが、辺りにそれらしいものが全く見えなかった。「本当にここで合ってるの?」と聞いてみたら、後部座席に座ってたおばちゃんたちが「あの道の先よと」外にある一本道を指差している。(そうか、ここから歩いて行くのか)とみんなにお礼を言い「じゃあ」と手を振ってバスを降りた。
シャウレイに帰る時のために、反対側のバス停でバスの時刻を確認した。ここがドマンタイという場所だということと、19時3分がシャウレイ行き最終だということを知った。(…1時間半後が最終便。これ逃すとどうなるんだ?)と、そんなことを考えていた時、近くで牛の鳴き声がして、鳴いてこっちを呼んでるような気がしたので近づいてみることにした。
草の中に入ると、右足にグニュと嫌な感触がして、見るとやはり牛の糞を踏んでいた。「この野郎!てめぇ、わざとだろ!」と靴をアスファルトに擦りながら、沈み始めた太陽を見て、何となく今日はよくない日になりそうな気がし始めた。
つづく