エレクトリーチカに乗ってセルギエフ・ポサード
ヤロスラブリヴァグザールでセルギエフ・ポサード行きのエレクトリーチカ(近郊列車)の往復チケットを買った。窓口のおばちゃんが「チケット無くしちゃダメよ」と言うので「ポニャール(わかった)スパシーバ(ありがとう)」と言って、チケットのバーコードを入場ゲートに読み込ませてホームへ入った。
「セルギエフ・ポサード行きの列車は14番ホームか」発着ホームを確認すると近くにあった電光掲示板に表示されていた。徐々に慣れてきたのか、キリル文字はアルファベットと一部交換すればローマ字読みもできるので、固有名詞なんかはなんとなく読むことができるようになっていた。しばらく列車を待っていると、突然ザーザー降りの雨、全くこれからなのに。
とは言え別にカバンも防水、濡れても風呂に入って洗濯すればいいので、雨ごときで止める理由もない「着いて必要なら傘を買えばいい」エレクトリーチカに乗り込んで適当な席に座った、車内には近郊路線図もあった。帰りは全部モスクワに通じてそうだから、とりあえず迷う心配はなさそう。
特にすることもないので、ガイドブックのセルギエフ・ポサードのページを読んだり、ムハンマドくんがくれたお金をみたりしていると、車掌がチケットチェックに来た「やっぱりそういう仕組みか」と捨てないで取っていたチケットを見せた。
列車に乗って1時間、セルギエフ・ポサードのバグザールに着いた頃には雨も小降りになっていた。駅の外に出ると地図があったので見てみると大通りまで出れば建物が見えそうな感じだった。念のため地図をデジカメで撮って出発。
「おっ、マキシム。あれだろ?大通り出たみたいだぜ、もうすぐだな」
マキシムと話しながらしばらく歩いて少し坂を登ったところに、トロイツェ・セルギエフ大修道の入口があった。
「あの、真ん中の泉の水は何か意味あるの?」「あれは癒しの水さ」「なるほどね、だから手を洗ったり顔を洗ったり、ボトルに汲んだりしてるわけか」
工事中なのか、この日はウスペンスキー大聖堂は中に入れないみたいだった。それにしても青色に金の星だけとは、また聖ワシリイ大聖堂とは違った面白さの屋根をしていた。
「やれやれ、手を怪我してるのに親切だな。ほれ、クワスのペットボトルは持つから貸しな」
二人でトロイツェ・セルギエフ大修道内をぐるっと回った。時折、黒服の神学生のような人も見かけた。
一通り見た後にマキシムが中を見てみたいということでトロイツキー聖堂に入った。
聖堂内は参拝をする人たちで列ができていた「参拝はこうやるんだ、マナーだ」「おっ、おう。そうか」とマキシムに参拝の仕方を習って棺に触れろうそくに火を灯した。
修道院を出てベンチに座り「マキシムはこの後何か予定があるのか、暇なら飯でも食おうぜ?」と言うことでモスクワで夕飯を一緒に食べることになり、マキシムは「明日は何も予定がなければ、また会おうぜ」と聞いてきたので「別に無いし、せっかくだからいいぜ」という約束になった。
「それにしてもまさか隣で地図見てたやつが、見知らぬアジア人に突然一緒に行こうぜと話しかけてくるとは思わなかった」「マキシム、ウクライナ出身なんだろ?いつか機会があればウクライナも行ってみたいな」なんて声をかけられた時のことを話しながら駅まで歩いた。
カッサでチケットを買いホームに入ると、マキシムがいきなり「ん?ニノ!あれ乗るぞ、走れ!」「えっ?」そんな感じで僕たちは発車ベルが鳴る中、ドアが閉まりそうになっていた列車に駆け込んだ。席になだれ込んでドアが閉まり列車は発車した。座って水を飲んで少し休むと「ニノ、さっき買ったチケット落として無いよな?」「あるよここに」
帰りの列車の中では、近くにいた人がチケットを失くしたのか見当たらないのか焦っていると、その人は次の駅で降ろされていたり、反対方向から来た列車の表面に人が掴まったまま走っているのを見かけたり、列車の中で演奏を始めるミュージシャンがいたりと、なかなか会話に困ることはなかった。
ヤロスラブリ駅に戻ってきて、近くで夕飯が食べられる店を知ってないかムハンマドくんに聞きに行ってみたら、ムハンマドくんは「おっ、おかえりー」みたいな感じで手を振ってくれた。マキシムとムハンマドくんがロシア語で近くのお店について話しマキシムが「オッケーわかった」みたいな感じになったので、二人でムハンマドくんにお礼を言って飯屋に向かった。
マキシムがビールを持って「俺たちの民族友好に」と言うので「僕たちは仲間だ」と乾杯した。ご飯はお互い腹が減ってたこともあって、あっという間に食べ終えてしまった。マキシムが1,000ルーブル札の大きなお金しか持ってなかったので「お前年下だし若いから割り勘じゃなくておごりでいいぜ」と言ったが「いや、後で崩して返すから今は立て替えてくれ」と引かないので「全く律儀な男だな」と、そういうことにした。
マキシムが商店でお札を崩して「確かに」と言って代金を受け取り、クロノセーリスカやらメトロに乗った。マキシムとはルビャンカで「また明日な」と言って別れた。僕はアルパーツカヤで降りて、夕時のアレクサンドロフスキー庭園を少し散歩して宿に戻った。
明日は成り行きで予定が入ってしまったので、宿に戻ってサンクトペテルブルクの宿を調べて予約を済ませるとすぐに寝ることにした。そして僕の誕生日はケーキ一つ食べることもなく、あっさりとこんな感じで終わってしまった。
つづく