ゼムガレのイェルガヴァ
少し遅く起きて朝食をとって、アルトゥーの日本行きの出発準備を手伝った。修行に入るという安泰寺ってのが気になって、変な寺なんじゃないかと調べたみたが特にそういったこともなかったので安心した。日本人の僕ですら禅寺修行の経験はないのに、そのためにラトビアから日本まで来るんだから正直すごいなと思うと同時に、何がそこまで惹きつけるのだろうかと少し不思議に思った。
アルトゥーが準備した荷物の確認を終えると、アルトゥーとロディオンの故郷のイェルガヴァを案内してくれた。ラトビアの首都リガから鉄道でおよそ1時間、ラトビア南部ゼムガレ地方の中心都市イェルガヴァは緑豊な静かな街だった。
一先ず、最寄りのハイパーマーケットに行き夕飯の買い物を済ませた。看板を見て「ハイパーマーケットって何?」と思ったのだが、確かにスーパーよりはハイパーな品揃えだった。しかし、日本食の調味料を見つけることはできなかった。一宿一飯の恩ということでアルトゥーに日本のカレーライスを作ろうと考えたのだが、カレーのルーはない。「止むをえない、小麦粉とスパイスでカレーのルーを作るところからか」そうなると初めてなので嫌な予感しかしなかった。
何とか必要そうなものを見繕い、買ったものが入ったハイパーの袋を持ちながらイェルガヴァの街を見て回った。
市内にはいくつか教会があり、青と白の色が綺麗だったロシア系教会のような建物では、こじんまりとした結婚式が行われて、新郎新婦が祝福されていた。
川沿いの遊歩道を歩いているとベビーカーを押すお母さんや、自転車に乗ってる子ども、ベンチに座ってるカップルなんかを見かけのんびりとした風景が広がっていた。
しばらく歩いていると道の真ん中に像が立っていたので何か聞いてみると「これは昔の苦学生の像なんだ」そうだ。「傘ぼろぼろじゃないか」とよく見ると、水で細かく雨の演出がなされていて「そこまで力を入れる必要ある?」と謎だった。
大きな道路を渡り、イェルガヴァ城の近くを歩いて行った。イェルガヴァ城はロシアのサンクトペテルブルクにある冬宮殿やスモーリヌイ修道院を建てたイタリア人建築家ラストレッリの作品で、今は国立総合大学として使用されていて、付近の公園では学生のような男の子や女の子が遊んだり本を読んだりしているのを見かけた。
市内中心部へ戻ってくると小さなショッピングストリートのような場所に出て、街の人たちの雰囲気を見ながら歩いていると、この街は若い人には少し退屈かもしれないけど、とても静かで平和な街なんだろうなと感じた。そして僕はそういう場所が結構好きだったりするのだ。その通りには、もとからそういう色なのか錆びてしまったのか、ロボットのようなピエロのような像があって、なんかちょっとカッコイイ良かった。
家に戻り、何か色々足りないんじゃないかと気になる夕飯の食材を整理し、黒パンのスライスにサラミとチーズを乗せて作った昼ごはんを食べて、夜帰ってきた時のために、先に小麦粉とスパイスを混ぜて炒めたカレーのルーとあめ色玉ねぎだけ作っておき、味見は怖いのでしないでおいた。
午後はロディオンのゲームのイベントがあるとかなんとかで、それを見に行くためイェルガヴァのバスターミナルへ行った。
チケットを買ってマイクロバスに乗り、新しいラトビアの友達に会いに僕らはまたリガへと向かっていった。それにしてもイベントって何をするんだろう。
つづく