ロシアの国民的炭酸飲料クワス
家に戻るとユリアが大学から帰っていた。昼食には朝に食べたアクローシュカがまだ残っていてラッキーだった。これは本当においしい。テーブルにはナターシャさんとウラジーミルさんと話す時に使っていた和露辞典と僕の指さし会話帳が置きっ放しになっていた。和露辞典は多分アーニャが気を利かせて置いていてくれたんだろう。
ユリアと一緒に昼ごはんを食べてると「これ知ってる?」と言って日本の格闘技のようなサイトをスマホで見せられたが「ニエート ポーニャル(分からない)」と言うか本当に何それ「蛇勢館?」
出かけていたディマも戻ってきたので、ちょっと遊びに行こうとウラジミール・スカチョフ・エステート博物館へ。途中で、窓ガラスに金銭というステッカーを貼って走ってる「字のデザインだけで選んじゃったのかもしれない」そんな車も見かけた。
公園のような場所の中にある、ウラジミール・スカチョフ・エステート博物館は建物内が一部写真禁止になっていた。そんなに大層な感じがする様子でもなさそうだったけれど、飾ってあった古い調度用品はもしかしたら貴重なものなのかもしれない。僕に知識がないから良くは分からなかったけど、変な形の急須も、正直使いにくいと思ったのだが価値あるものなのかもしれない。
ディマとユリアと見学していると、タリツィで見かけた青いTシャツとオレンジのスカーフの集団と会った。耳をすませているとその人たちの中から、日本語が聞こえてきたから試しに「こんにちは」と叫んで手を振ってみた。あの時の男の子たちの顔ったらなかった。きょとんとするというのはああいう顔のことだと思う。今思い出しても笑える。
二人の男の子がこっちに来たので少し話をした。第一声が「びっくりしました」だったので「そりゃ〜そうでしょ。ごめんごめん」と謝った。金沢はイルクーツクの姉妹都市になっていて、彼らはその金沢の高校生だった。2年毎に交換交流をしてイルクーツクに来たり、ロシアの学生を金沢に招待したりしているらしい。
「どこまで行くんですか?」と聞かれて「日本から一人で船でロシアに来てシベリア鉄道に乗ってモスクワまで向かってる途中だよ」「二人は友達なんですか?」「あぁ、ディマもユリアも友達友達、今彼らの家に泊めてもらってるんだ」「どこで知り合ったんですか?」「ウラジオストクの宿でディマにイルクーツク来ないか?って声をかけられた」「それで!?」「うん、まぁなりゆきかな」「ロシア語は話せるんですか?」「ロシア語は話せない。多分、君らの方が話せると思う。二人は英語が少し話せるからそれで。後は辞書を見ながら何とか」「本当に!?」
「せっかくだから君らもディマとユリアにロシア語で話しかけてみてよ、多分日本人とロシア語で話せたら喜ぶと思うし」と言うと高校生たちは「わかりました」と話し始めた。何を話してるかわからなかったけど、四人とも楽しそうだった。その時僕は、日本人に会ったのは中島さん以来か、今どこにいるのかなと思いながら四人を見ていた。
会話も終わって全員で記念に集合写真を撮って別れた。ディマとユリアが「日本語で何て言えばいい?」と聞いてきたので「さよならと言えばいいよ」と日本語を教えた。二人は「さよなら」と言って手を振っていた。
この公園、ウラジミール・スカチョフ・エステート博物館以外は、少し遊び心のある公園だった。
公園を出て、イルクーツクと各国の友好都市が紹介されている場所に寄りがてらヴォルコンスキー家に行った。友好都市が紹介されてる場所では金沢についての説明が書かれていた。僕自身、金沢には行ったことがないから、こういうところなのかと勉強になったくらいだ。
ヴォルコンスキーの家に着いた頃には、閉館時間ギリギリになってしまっていたけど、受付のおばちゃんが「時間は気にせず入って見て行って」と言ってくれたのは嬉しかった。
ここはデカプリスト(専制と農奴制の廃棄を目指して蜂起したロシアの革命家たち)の一人が住んでいた家のようだ。
何故だか分からなかったけど、グリム童話の展示もあった。見終えて帰る時に、受付のおばちゃんも帰り支度をすませて待っていてくれたので、お礼を行って出口へ向かった。
この近くに教会があって修理中のようだったけど入って見てみようと言ったら、ユリアが入るためには髪を覆うスカーフのような布が必要らしい。宗教の違いだ。「じゃあいいや、一人で教会に入っても全然わからないし、行こう」僕たちはバスに乗りここを離れた。
バスを降りると、黄色いタンクがあって「そういえば、ネルパ水族館の近くでも見かけたけど、あれ何?」とユリアに聞いたら「昨日飲んでたクワスをあ〜やって売ってるのよ」と言った。「クワス?」
「あ〜このコーラみたいな黒いジュースか、最初は変な味だと思ったけど、なかなかうまいよねこれ」「ロシアの伝統的な飲み物でみんなよく飲むわ」「これ何でできてるの?」「黒パンから、う〜んライ麦を発酵させて作るの」「麦か〜だから若干ビールのような感じもあったのか」「なるほどね〜微炭酸の甘い麦茶か」「どこでも売ってるからモスクワでも買えるわ」「そっか」「一本買って帰りましょう」
そう言うと黄色いタンクから2リットルのペットボトルにクワスを入れて、プラスチックのカップもついでにもらって少し飲みつつ歩いて行った。
つづく