3等寝台プラツカールトヌイ
「窓が全部開かないところもあるのか。じゃあ、ここは当たりなのかな?風が涼しいですね、チナさん」チナさんは頷くと本の続きをまた読み始めた。
「あなた日本人?」「はい。え〜っとあなたは?」「私はキルギス、どこまで行くの?」「イルクーツクまで」「私はオムスクまで行くわ」「じゃあイルクーツクまで一緒ですね、よろしく」「こちらこそ」こうして僕は隣の席のキルギス人のチナさんと知り合った。
3等寝台車はウラジオストクを出たばかり、まだ人もまばらだった。これから徐々に色んな人が乗ってくるんだろう。必要な荷物だけ取り出して、バックパックはシートの下の荷物入れに入れた。そして人の少ないうちに車両内を見て回ることにした。
通路の車掌室横にあるサモワール(給湯器)は説明書きはなかったけど、要はコックをひねればお湯が出る、ただそれだけのことだろう。
その隣はトイレになっていて、駅に停車する前後は車掌が鍵をかけてしまうので走行中にしか使えないようだ。トイレの中の窓は4分の1くらい開くみたいだ。
通路に2箇所コンセントを見つけた。モバイルバッテリーは持ってきたけど、これで充電についてそんなに心配する必要はなさそうだ。
しばらくすると車掌がチケットの確認に来たので、一旦席に戻った。パスポートとチケットの確認が済んだので、僕は今後のためチケットの読み方を調べておくことにした。
ガイドブックを読んでいると、車掌がハンドタオルとシーツのセットを配りに来たので受け取った。敷き布団は各席ごとに置いてあったものを使用するようだ。
車掌はシーツセットを配り終わると、客室やトイレの清掃をしたり、ゴミの片付けをしていた。僕は特にすることもなかったので、ガイドブックでイルクーツクのことを調べていた。チナさんはずっと雑誌を読んでいた。そんなに面白いのかなと思って、少し見せてもらったけどロシア語だったので、何が書いてあるか全然わからなかった。
ずいぶんと暇になったしまったので、敷布団とシーツを敷いて、昼寝をすることにした。上段席はそんなに窮屈でもなく、足も伸ばせる。荷物を置く網棚もタオルをかける場所もある。下段席は日中、他の人も座るので布団を片付けなきゃいけないけど、上段席はそんなことしなくていいから、ずっと寝ててもいいし、気楽でよかった。
すごくのんびりとした時間だった。下を見ると、やはりチナさんは本を読んでいた。沈む夕日を見ながら風にあたり、涼しさの中でいつの間にか眠ってしまった。
起きると夜になっていた。チナさんは夕食を食べる準備をしていて、僕もお腹が空いたので夕食を食べることにした。チナさんが「飲み物用のグラスは車掌に言えばタダで貸してもらえるよ」と教えてくれたので車掌室に受け取りに行き、ウラジオストク駅で列車を待っている間に買ったサンドイッチとジュースを取り出し、チナさんと一緒に夕飯を食べた。
次の駅で電車が泊まり、韓国人のチョンさんが乗ってきた。空いていた僕の席の下を予約していた人だ。最初、僕を韓国人と間違えて韓国語で話しかけてきた、日本人だとわかると英語に切り替えた。彼はビロビジャンまで行くらしい。チョンさんは「ご飯食べた?」と聞いてきたので「ちょうど今」と答えると「ビロビジャンは寝て起きてすぐでさ、食料を買いすぎてしまったから、これあげるから食べて」とカップ麺とパンを手に取った。
「イルクーツクまで行くならもらっといて損はないよ」と言ってチョンさんは僕に手渡した。
つづく