新しいシベリアと呼ばれる街ノヴォシビルスク
早朝、気がついたら列車はタイガに停車していた。外気温は10度、寒い。上着を羽織って車両を降りようとしたら、発車間近だったのか連結車両にいた駅員に席に戻れと言われてしまった。だけど僕は席に戻るふりをして隣の連結車両の扉の前に立っていた。冷たい空気に当てられてすっかり目が覚めてしまった。
扉が閉まり列車が進み始めたので、シートに戻って布団の中から外を眺めていると、空が少しずつ明るくなり始めた。外にまだ人がいない。僕は仰向けになって朝日見ていた。
朝の9時頃にノヴォシビルスクに到着した。曇っていたこともあってか、一向に気温が上がらず温度計は12度を指していた。車掌のお姉さんも、上着を羽織って少し寒そうにしていた。
ガイドブックを見ると、ノヴォシビルスクからカザフスタンのアルマトゥまで列車が走っているようなので、中央アジアへ抜ける人たちはこの駅で降りていった。それにしてもすごい量の荷物を持っていた。
一時間停車した後に、列車はノヴォシビルスクを出た。僕のコンパートメントも人の出入りがあって、ノヴォシビルスクからはチュメニまで行くジナさんとペルミまで行くクリスチーナさんと言う二人の女性が乗ってきた。イルクーツクを離れてから男ばかりだったので、少し華やかになった気分がした。
アレクサンダーと昼食を食べていると、アレックスが「タブレットの充電できる?」と呼んできたので「充電ならコンセントでできるよ」と言ったら、うまく充電ができないので診て欲しいらしい。仕方ないので手持ちのモバイルバッテリーで充電を試してみたが反応がなかったので「もしかしたら接続部分が壊れてるかもしれないけど、表示プログラムがおかしい場合もあるから車内コンセントに繋いでしばらく待ってみよう」とアドバイスして様子を見てみることにした。
コンセント付近に行くと、誰かのノートパソコンが置きっ放しになって充電されていた。同じコンパートメントのジナさんに「あれは安全なの?」と質問したら「あんまり安全じゃないから、見てなきゃいけないわ」と言っていた、やっぱそうだよね。
その頃、自分のタブレット充電して放置していたアレックスは、同じコンパートメントの男性とクロスワードパズルに熱中していた。そういえば、ウラジオストクからイルクーツクまで一緒だったキルギスタンのチナさんもよく雑誌のクロスワードパズルをやってた。
アレクサンダーとジナさんとお茶を飲んでると二人が「くれぐれもモスクワでは身分証明書を肌身離さず持って、あと不用意に出しちゃダメ」とアドバイスをくれた。それ自体は当たり前のことなのだが、とりあえず心配してもらったので「あぁ、わかった」とだけ答えておいた。
窓から外を眺めると、大型トラックが走っていてアレクサンダーが「あれでイルクーツクからモスクワまで行くと五日くらいかかる」と教えてくれた。二泊三日で行ける列車の方がやはり移動は早いみたいだ。
僕らが話している時、隣のコンパートメントではおばさんが洋服が似合うかどうか他の人に見てもらっていて、その様子がまるで魔女みたいだった。
バラビンスクに着くと、ここでは少し停車するようなので、外に出て散歩してみた。ホームではお土産売りの女性が乗客に声をかけていた。この辺りからお土産の売り子をよく見かけるようになった気がした。
ホームから階段を上った連絡通路の上で空を眺めると、一直線に伸びる飛行機雲が見えた。飛行機に乗っていれば、こんなに時間もかからず一瞬で着くだろうし、こういう旅にもなってなかったんだろうと思うと、僕は何やってんだろうなという気持ちがよぎった。
アレクサンダーとクリスチーナが呼ぶので車両に戻ると、アレックスたちはクロスワードパズルを解き終わってしまったみたいで、他の雑誌を読んでいた。
バラビンスク通過。9,259kmから始まったシベリア鉄道の旅も三分の二を過ぎつつあった。首都モスクワまでは残り約3,000km。
つづく