戦車が流れた日
シートに寝っ転がって窓の外を眺めていた。突然、何かと思ったら戦車が流れていくのを見た。すれ違った貨物列車が何台もの戦車を運んで走って行った。あの列車はどこまで行くんだろう。首都が近くなってきたのかもしれない、そう感じた。
昼寝でもしようと目を閉じていると枕をガタガタと揺らされて、どこのアホだと思ったらアンドリューだった。「何?どうした?」「カメラ見せて欲しいんだけど」「ん?良いけど、ほれ」とカメラを見せると「この写真印刷できない?」と聞いてきた「うーん。こっちのカメラの撮った画像は、いや、待てよ!できなくもないかも?」という事で、デジカメで使ってたSDカードを、ポラロイドカメラに差し替えて試しに印刷してみたら「あっ、できた」となんかできてしまった。しかもポラロイドカメラで撮ったより画質がいい。ただ、思っていた通り画像サイズが違うのか変な余白ができてしまった。そんなものでも渡すと喜んでくれた。
「よし。できたできた、おやすみ」と寝ようとしたら「これはこれは?」「あ?」今度はノキアの携帯電話を渡されて「この画像は印刷できない?」とまたお願いしてきた。どうやら結婚式の写真が入ってるらしい。「うーん。少し時間はかかるかもしれないけど、できるかも?」と、ノキアの携帯電話からマイクロSDカードを取り出して、システムファイル以外の画像データだけをタブレットで一旦読み込んでコピーし、ポラロイドカメラのSDカードに移してプリントアウト。できた。手間はかかったけどなんとかできたものを持っていくと、そんな僕の気も知らずアンドリューとスヴィエタ夫妻はイチャイチャしてて、なんか少しイラッとした「ほれ!終わりな!」とにかく無事に写真もできて今度こそ僕は寝る。
一眠りした後に、昼食を食べようと下のテーブルを使おうとしたら、下のシートの人が無表情でなかなか辛いものがあったが、向かいの気難しそうなおばさんが「どうぞ座って」と席を譲ってくれた。見かけによらず優しい人たちなのかもしれない。クリスチーナにもらったサラミと洋梨を食べた。
昼食を食べ終わった頃に、列車は小さな駅に停まり。車両の点検と列車の追い越しがあった。
それが終わると出発のアナウンスが鳴ったので席に戻った。列車が走り始めた後、サモワールでお茶を作っていると、小さな女の子に「こっちにおいでよ」と声をかけられたので付いていったら、この子のお母さんとおばあちゃんがいて「一緒にお茶でも飲もう」と誘ってくれた。
ポーラちゃんは、お母さんのリラさんとおばさんのゾーヤさんと、モスクワに住んでいるおばあちゃんの家に遊びに行く途中で、リラさんが「これもよかったら食べて」とひまわりの種を出してきた。今度こそはと気合を入れてみたが、またしてもうまく食べれず。リラさんが「こう食べるのよ」と丁寧に教えてくれたけれどやはりできず。ポーラちゃんとゾーヤさん爆笑。リラさん苦笑「ポーラちゃんポーラちゃん、ちょっと笑いすぎだからね」
ポーラちゃんは宿題があるみたいで上のシートに登って、算数のテキストを取って降りてきた。その動きが機敏で体育は得意そうだな子だなと思った。ひまわりの種を食べながら、勉強しているポーラちゃんを見ていると次第に笑顔が消えて表情が硬くなっていったので、リラさんがヒントを出していた。「そうか算数は苦手なんだな、わかりやすいな」
三人の写真をポラロイドカメラでプリントして記念にプレゼントし、ポーラちゃんの宿題を邪魔しちゃ悪いので自分の席に戻ろうとしたら、リラさんがクラスノヤルスクのお土産を記念にとくれた。「僕もモスクワに行くので、またわからないことがあれば聞きにきますね」と言って席に戻った。そして列車はキーロフに停車した。
列車が発車する時に後ろから声をかけられた。「あなた日本人ですか〜?」と。
つづく