バイカル湖の後は
「広すぎて海みたいだ」バイカル湖西岸の港と鉱山の町スリュジャンカを抜けて走るシベリア鉄道。トンネルを抜けて見えた景色に僕はそうつぶやいた。
スリュジャンカを後にして走る列車はバイカル湖半の西側の急勾配を上がり、車窓の右側からバイカル湖が見下ろせるようになってきた。僕の席は車窓の左側だったので、空いている右側の席を見つけて座り、景色を眺めていた。
最初は曇があって少し雨も降っていたけど、走っているうちに一気に晴れた。
世界一透明な湖と言われいるバイカル湖はとても美しかった。大きくて、水平線の彼方にある湖の北側の先は見えなかった。
シベリア鉄道の列車もそれなりに早い速度で走っていたと思うが、湖畔を抜けるのに3時間もかかった。そしてイルクーツクへの停車案内が流れた。僕は荷物をまとめて列車を降りる準備を始めた。
ついに列車はブレーキをかけ減速し始めた。現地・日本時間同刻2014年8月2日19時30分。僕は目的地のイルクーツクに到着した。バックパックを背負って、チナさんとレナートに見送られながら列車を降りた。二人にお礼を言って握手をした。特にチナさんにはウラジオストクから本当にお世話になってしまい、改めて「ありがとうございました。お元気で」と感謝を伝えた。最後に「シィスリーヴァヴァ プゥチー(よい旅を)ニ バレーイ(病気しないようにね)」と言ってみた。チナさんはうんうんと頷き、レナートは僕の肩に手を乗せ笑った。発車のアナウンスが鳴り、二人は座席に戻り僕はホームで発車するのを待った。
窓から顔を出して手を振ってくれたチナさんとレナートに、僕は頭を下げて手を振り返し、二人を見送った。いつかまたどこかで二人に会えたらいいな、そんなことを考えながらホームに立っていた。やがて列車は行ってしまった。もう見えなくなってしまった。僕は振り返り、通路を抜けてイルクーツク駅の出口へ向かった。
階段を登り出口に出ると「Ninoさん」という紙を持って二人の女の子が待っていてくれた。「やばっ、しまった!」と思って恐る恐る近づいてみると「遅いっ!!」と怒られてしまった。「ィ…イズヴィニィーチェ(す、すみません)」これが二人と交わした初めての会話だった。
つづく