ベロゴルスクI停車、夜の霧の中へ
列車はずっと草原を走っていた。まだまだモスクワまで8,000km以上、イルクーツクも3,000km以上はある。焦ったところでどうなる訳でもない。先は長い、気楽に行こう。
僕はガイドブックに書いてあったシベリア鉄道の路線図を眺めていた。もう過ぎてしまったし旅行者は行くことはできないだろうが、シベリア鉄道から北朝鮮の平壌に行く路線が接続されているみたいだ。下を見るとチナさんはずっと本を読んでいた。おばあさんは寝ていた。
そうこうしているうちにベロゴルスクI駅に着いた。ロシア人の赤ちゃんとお母さんはここで降りていくみたいで、ホームに降りて二人に手を振った。お母さんが赤ちゃんの手を取って、手を振り返してくれて少し嬉しかった。
しばらくはこの駅で停車する様で、乗客は駅のホームにある売店に行き、パン、カップラーメン、ジュースやお菓子などを買い足していた。
チナさんたちのおかげで持ち込んだ食料が全然減らない僕は、列車のそばでチナさんと立ち話をしていた。チナさんはキルギス出身だけど、今はロシア国内のオムスクに住んでいるらしい、お孫さんが5人いて会うのが楽しみだと言っていた。チナさんが売店や食堂車を利用しない所を見ていた僕は、多分チナさんは経験からそれが無駄遣いだと思っているからだと感じていたので、ロシアの中でのお金の使い方として少し参考にしてみることにした。出発のアナウンスが鳴り、買い物をしていた乗客が列車に戻ってきた。車掌がホームに乗客がいないか確認すると、列車はまた走り出した。
列車が走り出すとすぐにチナさんは「夕食だよ」と言って準備を始めた。「まだ早くないですか?夕方ですよ?」と言ったら「もう7時くらいだよ」と言った、「え?もうそんな時間?」と僕は時差を確認した。ロシアの夏は日が沈むのが遅いため、夜でも明るい。おまけにシベリア鉄道での移動中は毎日時差が発生するので、完全に時間感覚が麻痺し始めていた。そんなことを考えていたら「い〜からお茶いれてきなさい」と急かされてしまい「ハイハイ」と人数分のお茶を用意した。
セーリシェヴォ駅を過ぎたあたりから雨が降り始めたので窓を閉めた。その駅から迷彩服を着た厳つい男たちが数名乗車してきて、そのうちの一人は僕の隣のシートに来た。
深夜に突然、列車が止まった。駅ではなさそうなのだが。消灯後の車内は暗く静かで、みんなはまだ寝ているようだった。起きてしまった僕は窓越しに外を見ていた。
腕時計を見るとかれこれ2時間は経っただろうか、車内は少し暑かった。その後、少しずつ列車が進み始めると霧の中へと入っていった。
何かあったんだろうか。
つづく