日本人なめんじゃねぇ!迫るサンクトペテルブルグ出発
宿に着くと扉が閉まっていた「真夜中でも開けっぱなしのくせに」呼び鈴を鳴らしてしばらく待っていると、宿の客のエルザルが、タイミング良くタバコを吸いに外に出て来たので入れ違いに中に入った。荷物をまとめているとドミートリィが来て、今夜出発することを伝えると「じゃあ最後の一緒に夕飯だ」とあの豆煮込みの残りをくれた。どうやらチリソースは切らしてしまったみたいだ「今回はチリソースもなしか、少しきついな」
少し時間があまったので列車の時間まで宿で待っていると、ルスランという中年の男が声をかけてきて「少し近くを散歩しないか?」と強引に誘ってきた。あまりにもしつこいので「仕方ないな少しだけなら」と付いていってみたが、これは失敗だった。外はしばらくして雷雨になった。
公園で「タバコは吸わない」と断っているのに何度もしつこくタバコを勧めるわ、スーパーに行っては「酒とタバコとつまみを買いたいので金を貸してくれ、この後宿に戻ったら絶対返す」と言うわ、いざ戻ってみたら「今日は金持ってないから返せない無理〜」と言い出す始末。
「お金は返すと言っただろ?」と問い詰めても「友達だからいいじゃないか〜」と誤魔化そうとし「いやいや、僕が今日出ること知ってただろ?」と言って再度問い詰めたら、僕の頭を指差し中指を立ててきやがった。
その態度にはさすがに僕も頭にきた。
「いいだろう、わかった。なら、代わりにてめぇの履いているサンダルをもらう。買おうと思ってたところだからちょうどいい、てめぇはしばらく裸足で過ごせ。どうしても無くて、それが嫌なら、そこで笑ってるお前の仲良しのお友達に、今ここで金を借りて返しな!今日じゃなければ返せるんだろ?」
「それが無理なら…」
そうして、貸したお金を無事回収。
「みっともね〜から新しいお友達には二度とたかろうとするな!日本人には特にな!!日本人なめんじゃねぇ!!!」
そう吐き捨てて部屋を出ると、時間も迫っていたので急いでバックパックを背負い、宿の玄関でドミートリィとケイトと別れの挨拶とお礼をして外に出た。メトロの終電は翌1時、現在12時半。つまらないことで時間を取られてしまった。早歩きでメトロに向かっている途中、なんか馬を見かけて笑ってしまった、あれなら早そうだ。
終電間近のホームはほとんど人はいなかった、来た列車の中もガラガラに空いていた。
コムソモーリスカヤに着いて、ムハンマドくんの売店を覗いてみたら、彼はいなかったが代わりにいた従業員のおばさんがぐったりしていた。この時間帯じゃ無理もない、この店は何時までやってるんだろう。
レニングラードバグザールはライトアップされていて、駅とは思えないほど綺麗だった。建物の中に入って待合室まで進んだ。
建物の歴史的な外観とは打って変わって、中はかなり綺麗に整っていた。
ここには軽食の自販機やATM、小さな売店なんかもあった。僕は今は特に買う必要もなかったけれど、夜遅くまでやっているみたいだ。
電光掲示板に僕の乗る列車が表示されるまで、待合室の座席に座って待った。他にも列車を待っている人たくさんいてみんなお疲れの様子。座席が空いているのに、何故か床に寝てる人もいた。
「あれ?ない?」
電光掲示板に今日の最終列車が表示されると、僕の乗る列車の番号は228なのに222しか表示されていなかった。遅延かなと思って、チケットのチェックをしていた警備員に尋ねてみた「おい、これ駅違うぞ!急いでタクシーに乗れ!あと1時間しかないぞ!」「何だと!?」
警備員に連れられタクシー乗り場へ行き、急いでドライバーをピックアップしてタクシーに乗った。チケットを見せて「ここの駅です、スコリカ ストーイト(いくら?)」「3,000ルーブル!」「高ぇ!持ってない!」「先にATMに行ってやる」何か高い気がするがこちらに相場観がないのでこれ以上話しても埒があかない「くそ、仕方ねぇ、飛ばして行ってくれ!」
タクシーに乗ること20分「あれ?思いの外近かったな」と何かあっさり目的地着いてしまった。なのだが、タクシードライバーのオヤジは妙にテンションが高く「1,000ルーブル追加でホームの列車まで連れてってやる!」「いや、ここまで来れば時間もあるし、それは要らない大丈夫」荷物を降ろして構内に入ると、オヤジはまだしつこく付いてきて「馬鹿野郎!ここは迷路だ、辿り着けないぞ!お前ホームわかるのか、あ!?たったの1,000ルーブルだぞ!」
「何が、馬鹿野郎だ、いちいちうるせぇな。あそこの電光掲示板に228の列車は9番ホームって表示されてんだろうが。それに9番線のホームの案内表示があそこにあるじゃないか、真っ直ぐ行くんだろ?違うのかよ?」と言ったら、オヤジはしぶしぶ去っていった。
9番線のホームに着いて「この列車はこれですか?」と近くにいた女の子に尋ねたら「そうよ。私もこれよ」と彼女も同じ車両に乗る人だった。なんやかんやバタバタしてしまったが、無事サンクトペテルブルグ行きの列車に間に合ったみたいだ。
夜も遅いので、さっさと席に布団を敷いて寝る準備をしていたら、さっき話した女の子のヴィッキーとその下の席にいたアンナおばさんとタクシー代の話になった。
ヴィッキーは「ニノがいた駅からここまで、多分かかったとしても500ルーブルよ」と言い、アンナおばさんは「3,000ルーブルなんて先ずあり得ないわ」と言っていた。
「つまり僕はボラれたわけだ。うわ〜6倍も多く払っちまったじゃないか〜ちくしょう!」「しかもだよ、ヴィッキー、アンナおばさん、更に駅の入口からホームまで付いてくる代わりに1,000ルーブル払えって言ってたぞ!」「ないない、ないよ」「悪いドライバーだわ、災難だったわね」「多分、アルメニア人よ彼らはがめついから」「いやそれは断定はできないが、アルメニアか一応覚えておくか」「もしまたあの顔を見かけたら、今度は顔面に思いっきりパンチを叩き込んでやるさ」
こういう嫌なことがあった日は、早く寝て忘れるに限るか。「スパコーイナイ ノーチィ(おやすみ)」「おやすみ」「おやすみなさい」
僕は布団で横になりながら、マキシムのように律儀な男もいれば、カーチャちゃんやアテムくんのように優しい子たちもいる、ヴィッキーやアンナおばさんは不正はおかしいと言っている。その一方で僕にたかろうとしたり、今回のタクシードライバーのように嘘をついて変な料金ふっかけてきたりしたやつもいる。あいつらは普段どういう心境で生きているんだ、当たり前のように人を騙して、それが当たり前で別に何とも思ってないのだろうか。
どこの国にも良い人もいれば悪い人もいる、日本人だって同じようにクズはいる。彼らの事情は知らないし興味もないが、きっとそういう生き方をすると自分で決めて、これからもそういう風に人生を選んで生きていくだけだ、大したことじゃない。僕は他人に殴られるような人生はごめんだ。
一先ず今後の注意として、移動手段の詳細確認と相場は事前把握はしっかりやろう。それと、ヴィッキーの寝顔を見れただけでも、差し引き2,500ルーブル以上の価値は絶対あったということにするか。
列車は暗闇の中、静かに次の街サンクトペテルブルグへと走って行った。
つづく