通りすがりのヤポンスキー
昨日の夜遅かったせいかお昼近くまで寝てしまった。朝食にパンとフルーツとヨーグルトを食べ、洗濯物を干していると外でサムが自転車の部品をチェックし出発の準備をしていた。サムはロシアを自転車で横断する気だ。昨日ビスケットを一緒に食べながらその話を聞いて思わず「クレイジーだな」と笑ってしまった。窓から「サム、まぁ死ぬなよ。グッドラック」と激励して見送り、彼は自転車を漕いで行ってしまった。
洗濯物を干し終えた僕は、ウラジオストクの街を見に出かけた。とりあえず、港から宿に来る途中に会った坂の上の教会(ポクロフスキー聖堂)に立ち寄ってみた。始めて見たロシア正教の建物はとても新鮮だった、思っていたよりも色鮮やかなものなんだなと感じた。
外が暑かったのと、これまでの疲れが少し出たせいか椅子に座って長く休んでしまった。すると、燭台の掃除をしていた女性が手招きをするので行ってみたら「台と椅子と燭台を運ぶのを手伝ってもらえないかしら?」とお願いされたので「ダー(はい)ダー(はい)ポーニャル(わかりました)」と引き受けて運んだ。少し重くて、これはこのおばあさんには大変かもしれないなと思った。おばあさんは「日本人(イポーニ)?」と聞いてきたので「ダー(はい)ヤー(私は)イポーニ(日本人です)」と答えた。でもこれ以上は会話は続けられなかった。僕のガイドブックを見ながらのロシア語は、まだまだ全然分かるなんてものじゃなかったから。
でも、運び終わって「スパシーバ」と言われそれが「ありがとう」とういう意味だってことは簡単にわかった。ガイドブックを見ながら「時間があればまた来るさ」と伝えてみたら嬉しそうな顔をして何か喋ってきたけど、意味はわからなかった。多分「ぜひまた来てください」とかそういう感じだろうなと理解した。「パカー(じゃあね!)」と言って教会を出た。坂を下ってしばらく歩くと遊園地のような場所があり、おもしろそうなので入ってみることにした。
中には何種類かのアトラクションがあり、子どもを連れた人たちがたくさん遊んでいた。ポップコーンやソフトクリームを食べたり、はしゃいでいる子たちはとても楽しそうで、小さいながらものんびりとしたいい場所だった。あまりにみんな楽しそうに見えたので、僕も観覧車に乗って試しに高いところから街を見渡してみることにした。
気持ちよく晴れた日に男一人で観覧車に乗って街を見回してはしゃいでいたんだけど、結構、面白かったよ。初めは何やってるんだろうと思ったけど、正直、乗ってよかったかな。この時、観覧車の上から人がたくさんいるところが見えたので、今から行ってみることにした。降りて遊園地を出ようと歩いていたら、着ぐるみを着たキャラクターと写真を撮っている可愛い女の子がいて、将来は美人になりそうだと思ってふと見たら、やけに胸がざわついた。この言いようのない不安な感じ、事件が起こってしまいそうな、そんな予感。
女の子と写真を撮った後も、執拗に子どもを探す(仕事のため)ミッキーの目に光はなかった。やがてミッキーは疲れてしまったのか、うなだれてベンチに座り込んで、おっさんたちに愚痴り始めたように見えた。
「最近、調子どうよ?」「ん?ああ、まぁまぁかな」「そっちは暑い中、大変だね」「仕事だからね。ところで一緒に写真でもどうよ?」「うーん」そんな話をしているようにも見えた。僕は切なくなって遊園地を後にした。
つづく