ロシアの家族と出会った日
宿に戻る途中の公園で見かけた人は、一体何をしていたのかよくわからなかった。怪我をしないといいんだけど、歩きにくそうだな。
宿に着くと、ちょうどヒョンヒムとドンワン(ホン兄弟)が買い物に出かけるところで、僕も明日乗る予定の列車に持ち込む食料品を買うために付いて行った。買い物帰りは三人でビールを飲みながら歩いた。
キッチンのソファーに座ってシベリア鉄道のチケットをネットで予約しようとしたらうまくいかなかった。隣に座ってたおじさんが「スイカ食うか?」と言ってきて、すげぇナイフで切ってくれたスイカを食べながら「実はチケットの予約がうまくできなくて」と言ったら「ちょっと待ってろ、俺がロシアのサイトで調べてやる。うん。席はこれだけ空いてれば大丈夫だろうから、明日の朝にでも駅でチケットを買えばいい」と言ってロシアの予約サイトから空き状況を調べて教えてくれた。良かった、これで明日、出発できそうだ。
受付スタッフのクリムくんは沈んでいた。どうしたのか聞いてみたら、変な文句ばかり言ってくるお客さんがいて参ってしまったらしい。「そんな人が何で安宿に泊まってるんだかね、値段相応だよ。それと、どんなことにでもとにかく文句をつけるのが好きな人もいる。そんなめんどくさい人、気にするだけ無駄だよ」と励ましてみた。「めんどくさい、懐かしい」とクリムくんは笑った。そこへオレンジのTシャツを着たドイツ人のおじさんが来て、自分の話をし始めた。彼は40歳から世界を旅し始め、エベレストスーパーマラソンを走っていた。娘さんは20歳の時に南米を一人で縦断したらしい「冒険一家なんですね」
そんな感じで話していた時のこと「君はこの後どこに行くんですか?」とイルクーツクから来た家族が尋ねてきた。「特に決めてないし宿のあてもない、まだ鉄道のチケットも取ってないけど、多分イルクーツクに行きます。バイカル湖を見てみたくて」と答えた。「私たちはイルクーツクに住んでるんだけど、よかったらうちに来ないか?」「え?それは助かりますけど、いいんですか?」「良いよ、ぜひおいで。私たちは明日に車でイルクーツクに向かい8月2日に着くから」「8月2日?あ、すみません。僕がイルクーツクに着くのは8月1日の予定なので、先に着いてしまいます」「大丈夫。うちは4人家族で他に娘が一人いるから、娘に君を駅まで迎えに行くように伝える。それで私たちが翌日着くまで、うちで一泊して待てば良い、ノープロブレムさ」「じゃあ、問題ないですね。明日の朝に鉄道のチケットを買ったら、あなたたちが出発する前に宿に戻って鉄道の番号を伝えます」
「って!?プロブレムプロブレム!娘さんと、どこの馬の骨ともわからない外国人が一泊!?ダメでしょう!お父さん!」「君は日本人だし良い人そうだから大丈夫だよ」「いやいや日本人だからって信じちゃダメですよ、日本人だって悪い奴はいます」「君はそうなのか?」「僕は違いますけど、娘さんにも聞いた方が良いですよ!」「じゃあ大丈夫、決まりだ」「え〜!?」
ということで次に行く場所が決められてしまった。お父さんは部屋に戻り、僕がイルクーツクで泊まる家のディマくんと「本当に君の妹さん大丈夫なのかな?」と話していたら、マシューが来て真面目なディマは二人で議論を始めてしまった。
ヒョンヒムとドンワンが「一緒に外のベンチで酒飲もうぜ〜」と誘ってきた。「そうだな、ちょっと酒でも飲もうかな」とそれに乗った。ディマには「話し終わったらディマも来なよ」と伝えて外に出た。
外はもう夜だったけどちょうど良い陽気で、二人は明日に韓国に戻るらしい。僕はイルクーツクに向かうと伝えた。酒を飲みながら日本と韓国の話をした。ホン兄弟は「いつか韓国に来たら、いろいろ案内してあげるよ」と言ってくれた「じゃあ日本に来たら、僕の番だな」
1本目の缶ビールが空いた頃、ディマが来て4人で何かに乾杯した。2本目の缶ビールを飲み干して、僕たちは部屋に戻った。布団に入って、これからどうなるのかな、なんて考えていたら、ドンワンが「おやすみ〜」と言ってきたので、僕もとりあえず寝ることにした。
つづく