世界一周の終わりの始まり
昼食を済ませ荷物の確認を終えた僕は、自分の部屋で寝っ転がって窓から外を眺めていた。天気は快晴。でも僕はこれからの旅のことを考えて憂鬱になっていた。
(…まだ出発時間まで6時間もある。荷物はもう3回も確認してしまった。それでも何か見落としてしまったものがあるかもしれないけれど、もうそれはその時に買うなりなんなりすればいいや!)
気持ち以外の準備は思いのほか万全で、気持ちだけがただ最悪だった。
(…世界一周に旅立つ人たちは、出発の時どんな気持ちなんだろうか?希望に満ち溢れているような感じや、わくわくするような感じなんだろうか?)
僕は今すぐにでも止めてしまいたいくらい気分が乗らない。玄関を開ける前から、もう行きたくない、止めてしまいたい、そう思っている。正直、怖い。
(…みんな、怖くないのか?)
そんなことを考えているうちに無情にも陽は沈んでしまった。
夕食は自宅で家族ととんかつを食べた。今思い返すと願かけの意味もあったのかもしれない。何に勝つ必要があるのかはわからないけれど、それでも気持ちはありがたかったし、何よりおいしかった。
(…好物もしばらくは食べられなくなるな)
そんなことを思いながら味わって食べた。食器を片付けて洗いものをし、テレビを見ながらお茶を飲んだ。出発までの少しの時間は家族と話をして過ごしたけど、内容はあまり覚えていない。
出発の時間が迫ってきた。家族にもらったお守りと貴重品だけもう一度確認してバックパックを背負った。靴紐を結んで、ショルダーバックを肩にかけ、玄関を出た。
母:「行ってらっしゃい、元気でね」
と家族が見送ってくれた。
僕:「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
そう答えて家を出た。
電車に乗るために駅へ向かった。陽が沈んでも、まだ少し蒸し暑かった。時折ふいた風は涼しく、夏の夜に聞こえる虫の声を聴きながら歩いた。今日は何故か当たり前のことばかり考えてしまった。普段なら考える必要のないことばかりだ。
(…名残惜しさか?それとも、これは後悔なのだろうか?)
駅までの10分、旅を諦める口実を探してみた。けれど、あっさり駅に着いてしまったので、仕方がないから切符を買って電車を待った。
やがて来た電車に乗った。帰宅ラッシュを過ぎたこの時間帯の車内は、席に座れるくらいには空いていて、僕は端の席に座りバックパックを足元に降ろした。するとすぐにドアが閉まり電車は走り始めた。
(…次の目的地までは1時間ほどかかるだろう。みんなは僕をどう見てるんだろうか?)
向かいの窓の暗闇に映る自分の顔はやけに複雑そうな表情に見えては、流れて消えてしまった。
(…不安だ)
2014年7月25日。この日、僕は旅に出た。友達や家族、自分さえもまだ行き先を知らない長い長い旅に。
つづく