さらばラトビア!修行の日々へ
食事が終わってレストランを出ると、今度はトラムに乗って市内へ戻った。e-タロンスというトラム・バス・トロリーバスの共通チケットの買い方は「バスの中で直接運転手に運賃を支払って買うこともできるけど、事前に買うと半額くらい安いよ」とアルトゥーが教えてくれた。街中のキオスクや自販機等でも買えるらしい。僕はアルトゥーに連れられて近くにあったNのマークの売店でe-タロンスを買った。
市内へ戻ると、アルトゥーの友達との待ち合わせ時間まではまだ余裕があったから少し散歩をした。その時に通り過ぎた日本食レストランTokyoCityは有名らしいけど少し値段が張るそうだ。海外にある日本食レストランを見ると、どんな味の料理を出しているのか気になる。やはり、地元の人の口に合うようにしているのだと思うけど、それを食べた日本人はきっと「日本と味が違う」とでも言うのだろう。
そんな感じでぶらぶらしていると、約束の時間が近づいてきたので、二人がよく行くという待ち合わせ場所のカフェへと向かった。そして、店の前で待っていたロディオンと合流した。
ロディオンはアルトゥーの地元の友達らしい。見た目通り優しく物腰柔らかな紳士的な男だった。席に座り挨拶をして一緒に乾杯をした。僕とアルトゥーの出会いや、ここまでの旅についてや、アルトゥーとロディオンについて三人で酒を飲みながら話していると、アルトゥーの二日後の話になった。
「えっ?明後日から一年間、日本の安泰寺に禅修行に行くの!?アルトゥーが?」
「そう、だから悪りぃけど、うちには明後日までしかいられないんだ」「いやいや、気にすることじゃないよ宿くらい取れるから、こっちこそすまん時に来たな、ありがとう。て言うかお前、以前も禅修行してなかったっけ?ほんと好きな」
するとその会話を横で聞いていたロディオンが「今、弟が旅行中でいないから、もう少しリガにいたかったらうち来ても良いよ」と言い出した。
「おいおい、本当?そりゃ、ありがたい。もしかしたら世話になるかも」と言うと「ああ!」と快諾してくれて連絡先を交換し「二人にはお礼に一杯おごらせてくれ」と言うと「じゃあカフェラテで」と言う流れになった。「えっ?酒でも良いよ」と思ったのだが、三人でカフェラテを飲んで、また市内を散歩することになった。
店を出た時にはもう夕方に差し掛かっていた。二人が言うには、ある百貨店の屋上から夕暮れ時のリガの街並みを綺麗に眺めることのできる場所があるらしい。折角だから、みんなでそこに行くことにした。
歩いている途中でロディオンが「これさっきのお礼に」と言ってアイスを買ってきてくれて「これじゃあおごった意味がないな、でもありがとう」と三人でアイスを食べながら市街を歩いた。「プロンビールか、これ知ってるよ」とそのアイスがロシアでよく食べたプロンビールのアイスクリームだったので、少し懐かしくなった。
アイスを食べている時に、アルトゥーとロディオンが「ラトビアにはブラックバルサムと言う有名な酒があって、それをコーヒーに入れたりアイスにかけて食べるんだ」「スーパーマーケットにも売ってるからお土産にでも良いし探してみると良いよ」と教えてくれた。そして、二人が連れてってくれた百貨店の屋上で、夕陽の沈むリガを三人で眺めた。そこはレストランにもなっていて、静かでとても良い場所だった。
しばらく夕焼けを眺めて百貨店を出たら、アクメンス橋からタウカヴァ川を渡って国立図書館の方へ歩いて行った。
鉄道博物館を越え、ラトビア独立戦争勝利広場にあるソ連軍勝利の記念碑という柱を見た。その時は「何だろうこの柱?」程度にしか思わなかったけど、後にこのことは「何故こんなものが残っているのか?」という疑問に変わった。
そろそろ暗くなってきたので、今日は一先ず解散することにして、最寄りのトーナカルンス駅へと夜の公園を抜けて行った。
その駅は、ラトビアがソ連占領下だった頃のシベリア流刑の出発駅だったそうで、二人はその当時の車両と流刑犠牲者の慰霊碑について説明してくれたのだと思うのだが、成り行きでたまたま友達を尋ねてこの地を訪れた僕はその時あまりに無知すぎた。
トーナカルンス駅は小さな駅で、ロディオンはリガ行きの切符を、僕とアルトゥーはアルトゥーの家のあるイェルガヴァ行きの切符をそれぞれ買った。窓口には「KASE」と表示されていて、そう言えばロシアでは「KACCA」だったことを思い出した。
ロディオンには「また連絡する、今日はありがとう」と伝え、着た列車に乗って駅のホームで別れた。列車に乗ってる時、アルトゥーは疲れたのかウトウトと少し寝ていた。
イェルガヴァの駅前は灯りも少なく、舗装途中の公園は歩きづらかったけど、真っ暗で星がよく見えた。家に着いてお茶を一杯頂き、今日はお互い疲れたので「また明日」とそのまま休んだ。
つづく