終点モスクワ

モスクワヴァグザール

2014年8月10日。モスクワ時間は午後4時。僕たちの乗ったシベリア鉄道は、モスクワ中心部北東のヤロスラブリヴァグザールのホームにゆっくりと入っていった。そして列車は止まり、車両からホームへと昇降階段が開かれ、先ずは車掌が降りる。安全確認が終わると、車両の通路で降りる順番待ちをしていた人たちがぞろぞろと進み始めた。

 

誰も待っている人がいない僕は、急ぐ必要がなかった。最後に降りようとコンパートメントのシートに座って、徐々に降りていく人たちを見送った。その中には、ポーラちゃん一家やアンドリュー夫妻、ダマラさん、アレクさんたちとアンジェリーナちゃん、アマンさんと少年、進んでいくみんなにお別れを言った。ついに車内が静かになり、誰もいなくなってしまった。そして僕の番。

 

ホームの様子

ホームの様子

 

ホームに降りると、そこには迎えに来ていた家族や友人と再会する人たちで溢れていた。僕は乗客の流れに乗ってホームの出口を目指し歩き始めた。

 

ホームの出口へ

ホームの出口へ

 

イルクーツクから二、三日しか経ってないはずなのに、久しぶりにバックパックを背負ったような気がした。歩きながら隣のホームを見てみると、他の場所から到着した列車も見えた。ふいに、あの列車はどれだけの時間をかけてどこからここまで来たんだろうかと思った。

 

ヤロスラブリバグザールのホーム

ヤロスラブリヴァグザールのホーム

 

出口を目指して歩いているとアンドリューに声をかけられ「荷物を運ぶのを手伝って欲しい」と頼まれた。「これ持つのかよ?」と白くでかいバックを渡され「ついでにこれの片方の持ち手も持って」と、段ボールの持ち手の片方も持たされた。

 

「なんだこれめちゃくちゃ重いな!何入ってんだ?」「自分で持てない荷物は持つなよ!」とぶつくさ言いながら、歩いては止まり歩いては止まりを繰り返して出口の近くへ、そこにはアンドリュー夫妻の家族らしきおばさんがいた。「ここまででいいよ、いや〜助かったよ〜」と言うアンドリューに「最後まで調子いいなお前は」と言って荷物を降ろした。「そんじゃまぁ元気でな」と二人と握手をすると、僕が持ってきた荷物を今度は待っていたおばさんが勢い良く背負った。「このおばさんが持つのか、手伝おうか?」と言う前に三人は人ごみの中へ行ってしまった。

 

アンドリュー夫妻の荷物

アンドリュー夫妻の荷物

 

息を切らしながらふと隣を見ると、そこにはシベリア鉄道のキロポストがあって、ウラジオストクで9,298kmだったキロポストが今は0kmになっていた。

 

モスクワバグザールのキロポスト

モスクワバグザールのキロポスト

 

「そっか、終わったんだ」

 

モスクワバグザール

モスクワヴァグザール

 

そう呟きながら僕はキロポストの隣に立ってモスクワヴァグザールを見上げた。その後に、乗ってきたシベリア鉄道のホームを振り返った。

 

そこにはもう僕の知っている人は誰もいなかった。

 

つづく

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